トレーニングの情報って、いろんな噂が飛び交っていますよね。
20年くらいまえから効果があるとされている「スロートレーニング」、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか?
「スロートレーニングは筋肥大に効果的」
「ゆっくり動くから関節に優しく、怪我予防にもなる」
こんな話を聞くと、「それなら自分も試してみようかな」と思う人も多いはず。でも、ちょっと待ってください! 本当にスポーツ選手にとってスロートレーニングが最適な選択なのでしょうか?
結論から言います。
✔ スポーツ選手がパフォーマンスを向上させる目的でスロートレーニングを行う必要はありません。
✔ スロートレーニングは筋力・瞬発力の向上には適していない。
✔ スロートレーニングが有効なのは、怪我予防やリハビリの場面だけ。
「え、そんなはずないでしょ?スロートレーニングが効果的だって話もあるのに?」と思いましたか?
じつは、私自身2005年に医師から勧められてスロートレーニングを取り入れていました。
しかし当時から、
この記事では、スロートレーニングのメリット・デメリットを科学的研究を基に徹底解説します。
本記事によって、本当にやるべきトレーニングが分かり、パフォーマンスを最大化できる方法が明確になります。
この記事のポイント
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スロートレーニングとは?本当に効果があるのか?
スロートレーニングの基本ルール
スロートレーニングとは、動作をゆっくり行い、筋肉への負荷時間(タイム・アンダー・テンション, TUT)を長くするトレーニング方法です。
具体的には、
- コンセントリック(求心性収縮:挙上)を3~5秒
- エキセントリック(遠心性収縮:降下)を3~5秒
というゆっくりした動作を行います。一般的な筋力トレーニング(各フェーズ1秒程度)と比べ、1回の動作時間が長くなるため、筋肉への刺激が持続することが特徴です。
求心性収縮や、遠心性収縮について詳細に説明している記事はこちら
スロートレーニングの主なメリット
「じゃあスロートレーニングは良いんじゃないの?」と思うかもしれません。確かに、以下のようなメリットがあります。
✔ 筋肥大の促進
✔ 関節や腱への負担軽減
✔ 低負荷でもトレーニングが可能
Tanimoto and Ishii (2006) の研究では、スロートレーニングを実施した若年男性において、筋肥大や筋力向上とともに、血中ホルモン(成長ホルモンを含む)の急性反応が通常のトレーニング群よりも有意に高かったと報告されています。
また、さまざまな研究においても、スロートレーニングの方が時間あたりの代謝ストレスを高め、その結果、成長ホルモンの分泌が促進される可能性を示唆しています。
また、スロートレーニングは、筋肉への刺激は十分に与えつつも、動作をゆっくり行うため関節や腱への急激な衝撃が抑えられることから、怪我のリスクが低減されるという点が大きなメリットです。
特に、テニス肘やその他の腱障害のリハビリテーションでは、低負荷で長時間の刺激が腱の修復と強化に寄与する可能性が示唆されています。
これらの結果から、スロートレーニングは素晴らしい方法に見えます。
しかし、実際にスポーツ選手が求める「競技パフォーマンス向上」という観点で見た場合、この方法は適しているのでしょうか?
スロートレーニング vs. 通常トレーニング
筋肥大の観点
スロートレーニングの研究では、筋肉の断面積(CSA)が増加することが示されています。つまり、筋肥大には一定の効果があると言えます。
2008年の研究では、軽い重さでも「ゆっくり動かす」ことで筋肉を増やせると示しています。
Tanimoto et al. (2008) の研究概要対象者:健康な若年男性 36名 比較内容:
トレーニング期間:13週間(週2回、スクワット・チェストプレスなど5種目) 筋力向上の結果:
筋肥大の結果:
結論: |
スロートレーニングと早いトレーニングでは、筋肥大が2.3%しか差がないとしています。
また、最強の科学的研究手法であるシステマティックレビューでも、同様の結果が出ています。
Schoenfeld et al. (2017)は健康な成人を対象とした21件の研究(メタ分析)では、低負荷レジスタンストレーニング(≦60% 1RM)を高負荷レジスタンストレーニング(>60% 1RM)を筋疲労到達まで行った場合の筋肥大と最大筋力の違いを調べました。
結果、
- 筋肥大の増加量:高負荷と低負荷で有意差なし
- 1RM最大筋力の向上:高負荷の方が有意に大きい
と結論付け、筋肥大は、高負荷と比較しても遜色ないことを示しました。
筋力について
最新のメタ分析(Hermes & Fry, 2023)では、スロートレーニングと従来の速いトレーニングを比較し、筋力向上の効果を分析しました。
(Hermes & Fry, 2023)の研究概要
|
つまり、スロートレーニングよりも速い動作の方が3.65%も筋力向上率が高かったということです。
筋肥大で紹介した論文にも、筋力向上は速い動作のトレーニングのほうが有意に効果があることが示されています。
これは、スロートレーニングが軽い負荷で行われるため、神経系の適応が不十分であることが原因と考えられます。
競技パフォーマンスへの影響
スポーツでは、瞬発力や爆発的なパワーが重要です。例えば、
- 短距離走では一瞬の加速力
- バスケットボールではジャンプ力
- 野球ではバットのスイングスピード
これらは全て「爆発的な力発揮(パワー)」が求められます。スロートレーニングは、このような爆発的な力発揮にはデメリットであることが明らかになっています。
スロートレーニング vs. 通常トレーニングの比較
比較項目 | スロートレーニング | 通常の筋力トレーニング |
---|---|---|
筋肥大 | 〇(時間あたりの代謝ストレスが高い) | 〇(高負荷なら同等の効果) |
最大筋力向上 | △(負荷が軽いため効果が限定的) | ◎(高負荷による神経適応あり) |
瞬発力・パワー | ×(動作が遅いため不向き) | ◎(爆発的な動作が可能) |
成長ホルモン分泌 | 〇(急性の分泌が増加) | △(トレーニング後の分泌はスローより低い) |
怪我予防・リハビリ | ◎(低負荷で関節に優しい) | △(高負荷トレーニングは関節負担あり) |
スポーツ競技向け | ×(競技パフォーマンス向上には不向き) | ◎(パフォーマンス向上に最適) |
スロートレーニングと成長ホルモン:筋肉成長に本当に役立つ?
スロートレーニングは、成長ホルモン(GH)の急性分泌を増加させるとする研究結果もあります。成長ホルモンは筋肉の修復や代謝促進に関与しますが、長期的なパフォーマンス向上に直接影響するとは限りません。
つまり、スロートレーニングは、トレーニング直後にGHを増加させるが、長期的な筋力向上には寄与しない可能性がある。
これは、スポーツ選手にとって致命的です。トレーニングの目的は「試合でのパフォーマンス向上」。単にホルモンが一時的に増えても、それがパフォーマンスアップに直結しないのであれば、意味がありません。
成長ホルモン分泌の比較表
トレーニング方法 | 成長ホルモンの急性分泌 | 長期的な筋力・パフォーマンス向上 |
---|---|---|
スロートレーニング | ◎(高い代謝ストレスにより急上昇) | △(瞬発力向上には効果が薄い) |
通常の筋力トレーニング | 〇(スローよりは低いが分泌あり) | ◎(神経適応・筋力向上に直結) |
スロートレーニングは無駄なのか?
スロートレーニングが完全に無駄というわけではありません。実は、以下のような用途では有効です。
✔ 腱障害のリハビリ(アキレス腱炎、膝蓋腱炎、回旋筋腱板炎)→研究が多数過ぎて紹介しきれません。
✔ 関節・腱の負担軽減
✔ 高負荷を扱えない環境or高齢者
つまり、怪我をしている選手や、関節の健康を維持したい人には適しているのです。しかし、競技パフォーマンスを本気で上げたいのであれば、通常の筋力トレーニングの方が圧倒的に優れています。
スポーツ選手向けトレーニングの選択
目的 | 最適なトレーニング方法 |
---|---|
競技パフォーマンス向上 | 通常の高負荷トレーニング(80~95% 1RM, 1~6回×3~6セット) |
筋肥大 | スロートレーニング or 通常トレーニング(60~80% 1RM, 8~12回×3~5セット) |
怪我予防・リハビリ | スロートレーニング(30~50% 1RM, 12~15回×2~3セット) |
結論:スポーツ選手はスロートレーニングをすべきか?
パフォーマンスアップが目的であれば、必要はないでしょう。
ただし、怪我の種類によってはありです。特に腱障害(アキレス腱障害)などには、圧倒的多数の研究によって効果が認められています。
✔ スポーツパフォーマンス向上 → 通常のトレーニングをすべき!
✔ 筋肥大・ボディメイク → スロートレーニングは有効!
✔ 怪我後のリハビリ → スロートレーニングが最適!
もし、あなたが「スロートレーニングっていいらしいよ」と言われて迷っていたなら、この記事を読んだ今日から通常の筋トレに戻してください!
さらに、あなたが行っている競技にあった特異的なトレーニング方法(パワー系、持久系など)もあるはずです。
競技特性を考えてトレーニングを行うこと。
それが、パフォーマンスを最大化する最短ルートです。
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参考文献
- Tanimoto, M. & Ishii, N., 2006. Effects of slow-movement resistance training on muscular function and hypertrophy in young men. European Journal of Applied Physiology, 96(1), pp.123-130.
- Tanimoto M, Sanada K, Yamamoto K, Kawano H, Gando Y, Tabata I, Ishii N, Miyachi M. Effects of whole-body low-intensity resistance training with slow movement and tonic force generation on muscular size and strength in young men. J Strength Cond Res. 2008 Nov;22(6):1926-38.
- Schoenfeld BJ, Grgic J, Ogborn D, Krieger JW. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Dec;31(12):3508-3523.
- Hermes, M. J., & Fry, A. C. (2023). Intentionally slow concentric velocity resistance exercise and strength adaptations: A meta-analysis. Journal of Strength and Conditioning Research, 37(8), e470–e484.
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